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格式の表現として、"手数(てかず)"の多さを手法として用いた。 何世紀も前の欧米の古文書に出てくるドローイングやエッチングのような味で格式と誠実さを、さらに、二つのモチーフをねじって空中で配置することで現代感をも狙った。 手数をなるべく多く入れることによって、小さくしたときに生じる線の"潰れ"さえも、アナログ感を演出できるように狙っている。

 

このロゴマークのデザインだけでグラフィックデザインワークの中でも相当な時間をかけた。

陰の線の長さや太さ、方向、密度と非常に細かいディレクションに最後まで根気強くつきあってくれたグラフィックデザイナーは何度もバンド(チーム)に参加してくれている折原滋氏。

 

このロゴマークが格式と誠実さを力強く表現してくれば、後は、内装でコストを抑えても、簡単には世間の印象は軽薄な方向にならない。

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何かがあった時に慌てて頼り、"訴訟"の事態に陥るのではなく、"予防法務"によってその事態に陥らないように準備することの重要性を唱え、顧問契約に繋げたい、という依頼主からの希望を、懐刀と傘という二つのモチーフで表現した。
出来るならば、"戦わずして勝ちたい"。日本人が慣習的に持っている感性、スタイルかも知れない。
そのためには準備が必要だ、ということをコピーに落とした。

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ロゴマークのモチーフが"懐刀と傘"で依頼主の承認が取れた後に、その二つの配置をスケッチで何度もスタディする。ようやく方向性が決まった最終案のスケッチ。
デザイナーへのディレクションは、グラフィックデザイン、インテリアデザイン、建築設計に限らず、言葉だけではなく、より具体的にスケッチで伝えることが多い。

 

このスケッチをグラフィックデザイナーに渡し、スケッチで表現しきれなかったねじれ感、奥行き感を身振りやモデルで伝え、さらに、欲しい線のタッチを既存のサンプルを使いながらその場で、これもスケッチで描きながら伝える。

 

このスケッチは、年始の暖かい日の午後、外出先で時間の空いた時に描いたもの。
スケッチブックは、普段のものより小さいツバメノートA5無地クリーム、ボールペンはパーカーJOTTER2004年限定版。外出時のアイディアを描きとめる簡易セットだ。

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依頼人の名前は"Akio Sagawa"ということで、"Akio 佐川法律事務所"という意味と、"A(答え)は、佐川法律事務所にある"という意味を掛けたネーミングとした。
"A. "を使用することで、クラシックな佇まいと現代の柔軟さが醸し出されている。
このネーミングの提案に、依頼主は照れながらも一発で承諾してくれた。

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法律事務所のグラフィックワークにイラストが入る。しかも、単なる親和性を図った子供相手のものではなく、スタイルを意思表示し、大人のユーモアとして上品に演出する。
イラストレータのソリマチアキラ氏だからこそ実現出来る効果だ。

 

彼とのプロジェクトは、商店建築の連載、アルフレッドダンヒル銀座本店のプロジェクト等と10年にもなるだけあって、イメージのコミュニケーションはスムースでエキサイティングだ。
右のイラストでは、紳士に傘と懐刀を自然な感じで携帯させたい、カマーベルトに差せないだろうか、という私のオーダーに、スマートに応えてくれた。

 

彼と私は、洋服や小物の好みが近いこともあって、万年筆はモンブラン149、ジャケットのネイビー加減、傘のメーカーの変更による絞り加減の修整、と二人で話しながら、スケッチを描きあいながら、細かい部分まで具体的にイメージを固めていく時間はまさにクリエイションの実感に満たされれる時間だ。

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名刺のデザイン。
左の二つが表裏で現在使用されているもの。一番右のものは一時的に使用されたもので、表は一番左のものと共通。
表は万年筆のブルーブラックインクで書かれたような色で、裏は、箔押し。ロゴマークもネーミングもしっかりと仕掛けられたデザインなので、それ以上の妙なデザインは施していない。はしゃがず、抑えたデザインにすることで、大人になっても、キャリアを重ねても、いよいよ馴染んでもらえることを望んだ。

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写真ではわかりづらいが、名刺の裏の箔押しの色はブラックメタリック。
細かいエッチングような細い線の構成なので、メタリックも嫌らしくならない。寧ろ、インク溜まりの光沢感のようでもある。
また、線の細かさで、箔が潰れるだろう、その潰れが良いようにクラシックなアナログ感を出してくれたら、と、グラフィックデザイナーと話していたのだが、大成功。
近頃見かけるモニターデザイナーでなく、印刷方法や紙の特性を経験的に良く知るグラフィックデザイナーだからこその成功と言える。

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封筒のデザイン。公式に使用する封筒はいわゆる茶封筒らしく、それ以外の使用、つまり、クライアントや関係者への送付用にデザインした。
素材は茶封筒に白い釉薬を塗ったような白クラフト紙。ロゴマークの黒を映えさせながら、浮いたデザインにならないものを選択した。
"頼れる味方を携えて"というコピーは依頼主に何度も戻されてようやく決定したもの。コピー類はディレクションではなく、私自身で作成するのが常になった。懐刀と傘を携えて安心感に満たされ、自信を保っているクライアントに見立てた紳士のイラストと同調している。

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ファクス送付書、書類送付書、領収書、請求書、期日報告書のフォーマットデザイン。
フォーマットなので依頼主が書き加えることが前提となる。依頼主のPC環境をヒヤリングした上で、使用出来るフォント等、表現に工夫を施した。

元々は依頼主からのオーダーにはなかったのだが、依頼主のブランディングへの意識が高まったきた証拠であろう。あらゆる方向から、一枚岩のヴィジビリティでコンセプトを表現することで、固いブランディングが実現する。

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© Nacasa & Partners Inc.

事務所エントランスのデザイン。
木の虎目の壁紙と、シルバーグリーンのカーペットを軸に、グレートーンで抑えた色使いによって、溌剌(はつらつ)さと誠実さ、センスの方向性、はしゃがない落ち着きを表現した。

 

写真撮影は、ナカサ&パートナーズの梅津氏。2000年に銀座の眼鏡屋『Obj.east』の撮影の時には仲佐さんのアシスタントだった彼も、今では随分と役職も昇ったらしい。仲佐さん、梅津さんに撮ってほしい、と思えるプロジェクトを今後もしていきたい。

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© Nacasa & Partners Inc.

インテリアデザイナーは、元グラムの山田健一郎氏。年齢が近く、言葉や経験に共通するところが多いためか、デザインコミュニケーションが早い。シルバーグリーンのカーペットも、木の虎目の壁紙も驚く早さで、ほぼイメージ通りのものを見つけてきた。コンセプトを面白がる性格の彼は、このプロジェクトでは攻めたディティールを提案してきた。コンセプトの拡大解釈は諭し正すのだが、素的なアドリブ(コンセプトや指示にない表現)は採りいれることにしている。それこそが、バンドならではのライブ感、グルーブ感で、思いも寄らない効果に導かれる。双方の知恵と経験の出し合いは、プロジェクトを精錬化していく。

 

施工はピエロデザインワークス。担当は村川力氏。
いつもながら、キレイに仕上げてくれる。是正工事は殆どない。長年のバンド(チーム)メンバーとして参加してくれているので、勝手に私の気になる点を理解して自主是正してくれる。安心してお願い出来る施工屋さんだ。手前の木製棚家具も美しい仕上がりを年度末の最中に拍子抜けするほどの早さで納めてくれた。

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© Nacasa & Partners Inc.

大会議室のデザイン。
家具はタイムアンドスタイルにお願いした。代表である吉田龍太郎氏渾身のデザインという、私も大好きなラウンジチェア"Night Fly"のダイニングチェア版の"Zepher"を大小の会議室に10脚と、大きなテーブルも2台納めてもらった。無垢のウォールナットのテーブルと椅子。椅子の張り地はシルク混で少し光沢のあるグレー。
龍太郎さんの厚意で家具は贅沢なものを実現出来た。
抑えきれずに、ほんのたまに滲み出てしまうほどの閑かな狂気は、彼の創り出す家具と彼自身の魅力の大きな要素である。

 

エントランスとこの大会議室に置かれたプロップ(演出小道具)は、このプロジェクト用に私が街で買い揃えたもの。
ダンヒルのプロジェクトでも、このプロップを使用した演出は欠かせない。その場合のプロップは本国から送られてきたり、日本の倉庫に膨大にストックされている中からプロジェクトの規模に合わせて現場に送ってもらう。そして、現場で商品の特徴や、大きさ、形、色らを鑑みながら、その場で組み合わせていく。
プロップのセンスでもその空間にメッセージを添えることが出来る。

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ブランディングでは、重要な要素の一つである、ホームページ。
実際に事務所に訪れたり、本人に会う前に印象づけを行う入口だ。
シルバーグリーンのカーペット、本人の柔和な印象の代わりに、両サイドにカフェオレブラウンのモノグラムの帯を添えた。
デザインは私自身で行い、その後のコーディングは私のホームページでもお願いしている木宮志野氏。デザインに忠実でありながら、細かい気遣いのあるエンジニアリングが嬉しい。

 

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