〈2004年9月 連載分 初稿原文まま〉

<Theme>
夏の旅編

<Title>
Pagong / 京友禅アロハシャツブランド

<見出し>50
京友禅の染工場の蔵に眠っていた古くからの着物の図案を、100%シルクに京友禅で手染めしたアロハシャツ

<Spec.>200
Spec. of Pagong
○京都の友禅染め工場である亀田富染工場が、約10年前から始めたアロハシャツ・ブランドである。
○100%Silkの生地に、亀(工場の名前から)、椰子の木、パイナップルが地模様で縫い込んであり、それを京友禅で手染めしている。
○自社の蔵に眠っていた着物図案は約6,000もあったという。
○同様の製法でTシャツ、キャミソール、ノースリーブも展開する。
○Shopは現在(2004.7)、京都の2店舗のみである。

<本文>777
夏の日の夕暮れ時、祭りでもないのに浴衣を着て歩く若い娘達を見る機会が多くなったり、男の着物も注目されている中、日系移民の着物が起源といわれるアロハシャツがリゾート志向とともに注目されている。
私も、その染めのあまりの美しさに、京都の老舗友禅染工場が設立したアロハシャツブランドのモノを購入してしまった。
それは『Pagong』というブランドのアロハシャツである。生地は100%Silk、銀鼠の背景色に、牡丹、菊、梅の図案が、極彩色で染まっているモノを購入した。エレガントな素材、伝統的な図案でありながら、ラフな使用環境といった、バランス感が気に入っている。
ここで重要なのは、100%Silkに椰子殻のボタン、蔵からでてきた昔の図案、京都の老舗の染工場による染めであることと、アロハシャツであること、である。つまり全てが信頼のおける本物であることと、世の流れのなかに浮かんできたアロハシャツに注目したところである。
若干の染めの経験を積んだ若いファッションデザイナーが、流行に敏感に反応してアロハシャツを製作した、という、技術的な信頼性も、ファッションとしてのデザイン性も両方とも薄いモノとはワケが違う。中途半端な信頼も、中途半端なデザイン性も今は通用しにくい時代なのである。
疑いようのない技術の信頼性をもった老舗が、得意分野を活かしてアロハシャツをつくった。しかも、メーカーであるために安価で、生地にオリジナルの地模様まで入れる程、デザインにも新しい挑戦をしている。全てが本物、得意分野での新しい挑戦も行い、しかもアンティークに比して安値、全くいいようのない戦略である。
このブランドと同様の手法は、長い低迷から抜け出せない和装業界、地方の伝統技術にも通用する。誰でも簡単に世の中にプロダクトを発表できる今だからこそ、高い技術、高い信頼感が求められているのである。

 

<Title>
Alex Moulton / 小径自転車

<見出し>68
小径の自転車ながら、ミニと同様のサスペンションと、高剛性のトラス構造フレームは、『Silky Ride』と呼ばれる乗り心地を生み出した。

<Spec.>205
Spec. of AM18
○ミニのサスペンションの開発に携わったモールトン博士の設計による小径車(17インチホイール)である。
○本国イギリスではスペースフレームと呼ばれるトラス構造によるフレームがデザインの最大の特徴となる。
○'86年には伴走者なしの独走で時速82kmの世界速度記録を樹立した。
○英国のモールトン城でのみ、完全手作りによって生産されている。
○フレームキットで50万円以上、完成品では100万円近くになることも珍しくない。

<本文>822
旅の途中、気に入った土地で、Long Stay をしたくなるときがある。そんなと時、ヴァンデンプラのトランクから分割されたAMを取り出し、フラフラと散歩したい、で、勢いに乗ったらそのままロング・ツーリングに出掛けたい、と思って、AM18を購入した。
カラーリングから、コンポ、ハンドルに至るまでの各種パーツ、フィッティングに至るまで何度も打ち合わせを重ね、ようやく完成したAMに乗ったとき、正にそれは『Silky Ride』と呼ばれるに相応しい、未体験の乗り心地だった。車輪が地面の表面の凹凸を正確にトレースしていることを感じながらも、自分自身は全く上下動をしない、不思議な体感である。
古くから、英国では狭いスペースに有益な機能をひそめる、小さな実力者をつくる歴史がある。傘のなかにステッキをつくったり、007ボンドの映画のなかでQのつくるものもその流れだろう。小さいのに本気をだせば、大きいものに負けない、寧ろ上回るパフォーマンスを出すモノには、日本人も、同様の嗜好があるように思える。大自然を家に取り込んだドライガーデンや、電化製品にも見られる日本人のダウンサイジングへの飽くなき追求もその一種であろう。その辺は英国ジンと似ているのかも知れない。
このAMはほんの1、2分で容易に分割されて、小型車のトランクにも収納できる。しかも、軽くて楽で速いため、アメリカ大陸横断レースにも、ゴビ砂漠横断だってできるぐらいにロング・ツーリングに適している。
今、一般の大人の日常での自転車使いが流行しつつある。自分の健康を気にしたり、ちょっとだけ、環境についても考えているのかも知れない。しかし、なにより電車よりもストレスフリーであるし、そんなに遠くなければ自動車よりも早い。そんな動機で購入する自転車は、子供時代に乗ったようなものではなく、機能とファッション性が重要なのである。それに社会性と、自分の健康、所有欲のような満足度も達成できれば尚良し、である。

 

<Title>
沖縄 / OKINAWA

<見出し>40
Rootsに響く日本のリゾートは、今後とも数多く再認識され、定着していくだろう。

<Spec.>179
沖縄info.
○'03年の観光客数は年間500万人以上、本土からの移住者は3万人を超えたという。
○沖縄料理店も爆発的に増え始めている。
その影響もあって、沖縄から本土で沖縄料理店を始めようと逆に移住してきている人達も見え始めた。
○今や、ゴーヤは小学生の嫌いな食べ物No.1に選ばれるくらいに家庭に定着している。
○TV番組や、情報誌においても沖縄不動産紹介特集が組まれている。

<本文>765
この夏も、沖縄への旅行はもはや定着した流行であった。
その影響もあって、航空券のDiscountは行われず、海外に行くよりも高い場所、と言われる状況にはかわりはない。
しかし、沖縄に行くのである。そういう私も行って来た。真っ黒に日焼けして短パンで遊ぶ子供達、萬屋のようなミニ百貨アミーゴスと名打たれたコンビニ、窓を開け放して夕食を採る家族の食卓が、自分の小さい頃のそれに似ていて、懐かしく感じ、素晴らしい景色からだけでなく、穏やかな気持ちになってしまう。海外のリゾートでは感じ得ないことである。
そもそもは'90年初頭からの音楽業界における沖縄出身Artistの興隆、奄美民謡から始まった沖縄民謡の台頭がキッカケとなった。その後、健康ブームと、飲食店のブームによって沖縄料理が、焼酎ブームからの派生としての泡盛が注目されるようになった。
一方で、'90年初頭から続くマクロ経済の低迷に起因した社会不安、会社不信によって、もう、頼るところは自分自身と家族のみと考え始め、自分らしい生活、人間らしい生活を、家族と穏やかに過ごしたいと思う志向が増えている背景がある。
そんな中、最初は音楽というファッションからエントリーした沖縄という概念であるが、今やそこにこそ日本人としての人間の本来の姿を見いだし、つまり、Rootsを感じてしまって、移住という手段に出ている人も少なくない。
ここには、情報機器の発達も大きく影響している。複数の居住地を目的に応じて使い分けるマルチ・ハビテーションを可能にしているからだ。また、社会不信とネオ・ヒッピーの思想は、古くは大橋巨泉にはじまったセミ・リタイヤという概念を一般化してしまった。沖縄に限らず、精神的なリゾート意識を満足させる場所へ、経済力に関わらず、若者さえも居住の一部を移し始めているのも不思議ではない。

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『商店建築』2004年9月号掲載

 

 

 

 

 

〈2014年3月 コメント〉

連載初号ということで、なによりもまず、文章を書くことに慣れていない。ましてや、自分の立ち位置、文体、伝え方が曖昧だった。
それでも、現在の日本のアウトバウンドに繋がる日本の伝統技術の活用商品、レジャーではなく、旅のツールやアスレチックの道具としての自転車、心身を解放するリゾートへの注目、という時代の流れを伝えたかったのだろう。

 

 

 

 

サイズ違いで購入した銀鼠ベースに牡丹柄のアロハシャツの一枚はハワイでゴルフをしていた時に、あまりのフォームのぎこちなさに見事に破れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今現在の、日本の伝統技術をデザイナーが力ずくで採りいれて商品化している流れとは少し違う。
メーカーが自分達の資産(ギフト)に気付いて、自分達の出来る範囲で商品化した素直さがこの商品にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当時購入したモールトンAM18。限りなく黒に近い茶色と赤と白のトリコロールで色分けた。伊勢神宮の鶏と同配色。

 

 

 

 

ヴァンデンプラ・プリンセスの後ろ姿。小さいトランクだが、分割したモールトンを入れることは出来る。

 

 

 

この後、健康とアスレチック、そしてファッションまでもを背景に、2009年をピークに自転車ブームがやってくることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この辺から、今もまだ続く、"なにもしないリゾート"は沖縄も本島だけではなく、離島へ、そして、今や海から山へ、日本人としての美しい生活が営まれている集落へと対象を拡げている。

 

 

今は、国内旅行者だけではなく、外国人旅行者の旅行先として、挙げられる場所となっている。いわゆるインバウンドの需要が高い場所である。

楽天トラベル 沖縄インバウンドキャンペーン

参照 » 成果 / 楽天トラベル 沖縄インバウンドキャンペーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この原稿を書いた直前に、とあるプロジェクトの中で10代から60代までの様々な境遇の男女にインタビューを行ったところ、どの世代でも男女にかかわらず、口にした共通の言葉は"不安"であった。皆がそれぞれの事情で、"不安"を抱いていることが分かった。その状況は今も変わらない。寧ろ、その傾向は強くなったのかも知れない。このことを対象に企画を考えなくても良いが、このことを前提にはしておく必要があるだろう。

 

 

 

この時の小さな流れは、今では幾つも集まることで大きな流れとなって、若者の興味を地方へと逆流させている。

 

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