2004年の商店建築への連載が始まった時が、私の“戦略家”というタイトルの社会デビューであると思う。名刺を交換する度に、相当な頻度でこのタイトルを引き金として会話が成される。良いことでもあるが、自分自身でも、わかりにくいと思っているので、少々、説明したい。

 

戦略の策定と実行を行う人を戦略家と呼んでいる。

その機能は、プランニング、プロデュース、クリエイティブディレクションの3段階に分けられる。

まずはプランニング。プロジェクトの目的を達成するための企画、戦略を策定する。

この時に、依頼主からプロジェクトの目的と条件を頂く。目的は、売上げや利益、集客数、認知度、イメージ等、なんでも良い。条件とは、経済的、日程、人間関係、諸事情の全てである。そして、なにより重要なことは、プロジェクトを推進するために効果的と思われるギフトを教えてもらうことだ。ギフトとは、もともと備わっている天から授かった資産である。観光プロジェクトでいえば、温泉がある、水が美味い、はもちろんのこと、旅人を見たら話しかける住民気質、夜が閑か、報道できない祭りがある、等分野に限りはない。このギフトは私が調査するのではなく、依頼主自身が把握し、想いをのせて、私に教えて欲しいものだ。私はそれらの中から、プロジェクトの目的達成に有効なギフトを選び、企画に活用させていただく。

与えられた条件の下、目的を達成するための企画を、ギフトを活用して策定する。

企画の内容はデザイン、クリエイティブワークとなる。社員教育や、コストカット、株の操作等の提案は行わない。行えない。デザインを仕掛として活用して、戦略を策定する。

この企画戦略に独特の切り口があるのが私の特徴だ。 » “本質を削りだす” の項目参照

本質を捉えているが故に、目新しさがないデザインの場合もあるが、今までにない新しい考え方の仕掛が施されている。人間の本能や心理を把握して、デザインという仕掛でそれらを誘導する。

 

ここまでは、コンサルの段階。

ここからは、実行の段階。

 

実行の準備として、プロデュースという作業がある。

与えられた予算(予算をひっぱってくるのがプロデュースの最も重要な内容であろうが、私はそれを行わない)の振り分けやスケジュールを計画レベルでなく、実行レベルで作成する。

必要な職能を備えた各種デザイナーや製作者、施工者のようなクリエイター達を国内外から集め、必要なタイミングで登場させ、全てのコストを予算の中に収める。このチームのコーディネイションも戦略を施すチャンスとなる。クリエイター同士の化学反応も狙い方次第だ。

プランニングで策定した戦略が実行レベルでも効果を保つように、さらなる効果を発揮するように、具体的に、詳細に検証して、調整する。


ここでいよいよ、実行となる。クリエイター達へのディレクションだ。

プロジェクトの目的達成に必要な部分のデザインについては、微に入り細に入りデザインそのものを指示していく。素材、色、形、寸法、納まり。同時に、スケジュールに沿って進むように、予算内に納まるように監理する。

土木、ランドスケープ、建築、内装、グラフィック、プロダクト、家具、照明等、あらゆるデザインに意図、戦略を施すべく、業界の事情も把握しながら指示を施す。

優秀なクリエイターに対する程、こちらが専門知識やセンスを身につけて、業界の事情を把握していた方が良い。そうでないと、クリエイターが猛獣化してしまう場合がある。お互いの常識が違うので、そう見えるのだ。そして、それを身につけておけば、クリエイターの優秀さも発揮される。

クリエイターを紹介してくれるだけ、クリエイターに伝えるだけのコーディネイターでは、用が足りない。

私は、国内外の多くの種類のクリエイターと共にプロジェクトを推進してきたことで、彼らの得手不得手を把握し、プロジェクトに必要な職能のみを抽出し、プロジェクトに相応しい形にフィットさせることが出来る。

これは、私の特徴の一つであろう。



以上が戦略の策定と実行を行う戦略家の機能である。


全ては依頼主から頂く、目的、条件、ギフトを前提としている。

本質的にはこちらのほうが良い、と目的や条件を私が勝手に変えることはしない。ブリティッシュスーツを欲しいと言っている人に、あなたは太っているからアメリカンカジュアルスタイルの方が良いですよ、と勧めたりはしない。太っている体型にも美しく見えるパターンを引き、格好良いブリティッシュスーツを仕立てる。私に似合うスタイルを提案して欲しい、とあらば、アメリカンカジュアルスタイルを提案するかも知れない。

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© NOBUYUKI KOBAYASHI

 

 

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